2009年11月21日(土)、日本コーチ協会の第11回年次大会「Coaching2009」が、東京国際フォーラムで開催されました。今年は「リーダーシップを開発する」というテーマにもとづき、基調講演をはじめリーダーシップ開発におけるコーチングの成果が、さまざまな分科会で紹介されました。
ご参加いただきました皆様、また運営をサポートしてくださった皆様に、心よりお礼申し上げます。
以下に、当日の様子の一部をレポートします。
◆Sesson1 調査報告
オープニングのコーチング調査報告。今年は「これからの時代に必要なリーダーシップ開発」を目的とした調査が行われました。
◆Sesson2 基調講演 日本コカ・コーラ株式会社 取締役会長 魚谷雅彦氏 「メンバーのこころを動かすリーダーシップ」
ご自身の実体験にもとづく熱のこもった講演は、多くの参加者のこころを動かしました。
◆分科会 マネジメント
今回は、キリンビール株式会社様、株式会社マッキャンエリクソン様、アクサ生命保険株式会社様など、多くの企業様よりコーチングの導入事例をお話しいただきました。 「組織風土を改革するには?」「営業活動をより円滑にするには?」 「人材を育成していく上で必要なリーダーシップモデルとは?」など、ここでしか聞けない組織変革へのヒントが満載の分科会でした。
「日本一」プロフェッショナルな営業チームをつくる
安岡 利朗 アクサ生命保険株式会社 FA推進本部 副本部長
この分科会では、営業チームの業績向上に向けてコーチングマネジメントを活用した、アクサ生命保険様におけるコーチングの導入経緯についてご紹介いただきました。即効性を求めるのではなく、じっくり腰をすえて取り組む必要があるということや、コーチング資格を取得した社員の方とその他の方との成果の比較、といったお話が印象的でした。
聴講されていた参加者の方からは、「自分の体験を押し付ける」スタンスから「ちゃんと話を聞く」スタンスになったマネジャーの変化に対して、特に大きな反応がありました。
タテ・ヨコ・ナナメ 縦横無尽のコーチング文化の創造
早坂 めぐみ キリンビール株式会社 企画部
この分科会では、コーチング文化醸成を目指し、社内コーチ育成プログラムに取り組んでいるキリンビール様より、組織風土改革の経緯や現状、個人の成長、チーム力アップの施策、そこから生まれた成果(定量調査結果)などについてお話しいただきました。
参加者である企業人事・管理職・組織風土変革プロジェクト担当の方々から寄せられた「実施・運用する上でのポイント、苦労した点はどんなところだったか?」「実施した成果について、現場はどう変わったか?」といったご質問に対しても、具体的、かつ丁寧に回答されていた早坂めぐみ氏。オープニングとエンディングで流したDVDにも多くの参加者が惹き込まれていました。
創業60年「あんみつ みはし」の 次のステージに向けたリーダー育成の取り組み
佐藤 一也 有限会社みはし 代表取締役社長
お菓子屋の世界は「創業百年新参者」と言われるくらい、茶屋からの歴史を含めて老舗企業が多い業界。そのような中、先行企業との差別化を図り、不況に負けない組織力を身につけようとしている「あんみつ みはし」社長 佐藤一也氏より、普段知ることのできないあんみつの製造工程から、コーチングという新しい手法を取り入れる過程に至るまで、お話しいただきました。
製造工程や新メニューの紹介では、参加者のみなさんが食い入るようにスライドを見つめるなど、「みはしファン」の多さを感じさせる場面も。また、社長自ら社員からのフィードバックを受けてショックを受けたという体験談は、自らが率先して変化していくことを体現していて、会場からも賞賛の声が上がっていました。
一人ひとりのプロフェッショナル意識を高める関わりにより、 業績向上をもたらす
片山 浩司 株式会社ベアハグ 専務取締役
マネジメント層の教育を通して、社員一人ひとりのリーダーシップの開発に取り組む「株式会社ベアハグ」。この分科会では、専務取締役の片山浩司氏より、リーダーシップにおけるリサーチを導入した背景やその結果、リサーチに基づいて打った施策、その成果を中心にお話しいただきました。
業績が大きく向上した2店舗の成果事例や、会社全体の売上・粗利が上がっていく経緯など、定性データ・定量データともに、インパクト十分な内容でした
また、「片山様とベアハグとの出会い」を紹介したDVDは、多くの参加者より、「感動した!」というお声をいただきました。
コーチ型管理職の「質と量」がもたらす組織における変化
木村純子 株式会社マッキャンエリクソン 取締役/タレントマネージメント本部長
社内にコーチングカルチャーを根付かせるため、さまざまな試みを行ってきた木村純子氏より、社内コーチ制度を導入して、個人・チーム・組織のそれぞれが活性化した具体的なリサーチ結果や、人選へのこだわり、導入のポイントなどをお話しいただきました。
身振り手振りを交えながら熱く話してくださった木村氏。「社内コーチ制度が社内で機能しているのは、この人の存在なくしてありえない」と参加者の方に思わせるほどの熱のこもった分科会でした。
人事マネジャー(管理職)が実践するリーダーシップモデル
利根川 護 外資系食品メーカー 人事部
採用・教育・社会保険労務・組織制度の構築など、人事全般のマネジメントに携わっている利根川氏より、人材を育成していく上で必要なリーダーシップモデルについて、実際に取り組まれた事例をお話しいただきました。
また、「時間を生み出す」エクササイズが用意されていたことで、参加者の方々が、自身について真剣に考える参加型の分科会となりました。
質疑応答でも、「コーチングを学ぼうと思ったきっかけは?」「むっとするフィードバックを受け取ったときの対処法は?」など、利根川さんへの高い関心が見られる質問が多く、活気にあふれる分科会でした。
20代からの組織風土改革 ~営業にコーチングを活かす、上司をコーチする~
市丸 邦博 クボタ松下電工外装株式会社 関東・首都圏営業部 埼玉営業所
営業現場で活用することを目的に、25歳でコーチングを学び始めた市丸邦博氏。この分科会では、これまで当たり前のように行われてきた営業活動を見直し、代理店とのパートナーシップを築いていったり、代理店からのリクエストに応じて、コーチング研修を行ったりしてきた経緯をご紹介いただきました。
枠組みの中での活動ではなく、枠組み自体を変えていったプロセスに、参加者の方々の注目が集まっていました。
市丸さんの強い想いとリアルな体験が、参加者の共感を呼んでいた分科会でした。
◆分科会 コーチ・エィ / コーチング研究所LLP / コーチ・トゥエンティワン
Coaching2009では、協力/後援企業であるコーチ・エィ、CRI、コーチ・トゥエンティワンからも数多くの事例を紹介させていただきました。コーチングを取り入れた最新のリーダーシップ開発手法に、多くの参加者が熱心に耳を傾けていました。
エグゼクティブをコーチする
粟津 恭一郎 株式会社コーチ・エィ パートナー/シニアエグゼクティブコーチ
企業のエグゼクティブをコーチすることと、ミドルマネジャー以下にコーチすることの違いをテーマにしたのが本分科会です。今回扱われていたのは、製造業での事例をケーススタディ。「自分だったら、そのケースについてどのように対処するか」を考える双方向セッションでした。
「個人の行動変容のみならず、組織の構造変容までもたらすのが今後のエグゼクティブコーチのあり方」「個人が変われば良しとするのではなく、クライアント組織全体へのインパクトを与えなければならない」といった点には、受講者の関心がぐっと高まっていました。
リーダーシップ開発のために欠かせないアセスメント活用法
本間 達哉 株式会社コーチ・エィ 取締役
これからのリーダー育成には、「あるべきリーダー像」ではなく、その人の強みや価値観をふまえたリーダーシップ開発が大切です。本分科会では、そのためのアセスメント作成方法を学びました。自分の価値観に影響を与えているものとして、家訓を例に挙げた本間氏。それにより、価値観がその人の形成に大きく影響しているということが、参加者の方に実感いただけたようです。コーチ・エィの社員の方々の家訓とそれぞれの性格が一致しているという検証結果の紹介では、会場のところどころで笑いが起こるなど、終始和やかな様子の分科会でした。
コーチングをマネジメントの現場に導入する際の留意点
栗本 渉 株式会社コーチ・エィ パートナー
「マネジャーがコーチ型マネジメントを適用する際に直面しやすい困難とはどのようなものか?」 本分科会では、想定される困難を洗い出した上で、その対応策として必要な配慮や工夫点を、コーチ・エィの事例や脳科学の事例を元に紹介しました。
主なポイントは「業務と関連させる」「無理させない」「孤軍奮闘させない」「限界を教える」の4つでした。
マネジャーが抱きやすいコーチングに対する不安や恐れ、疑問に対するお話には、多くの参加者が頷かれるなど、有益な情報にあふれる分科会でした。
1on1コーチング/グループコーチングの組み合わせ技術に関する考察
福島 弘 株式会社コーチ・エィ パートナー/エグゼクティブコーチ
本分科会は、組織をコーチする際に求められるもの(長期・集中・継続、設計力・コーチ力・組織力・プロジェクトマネジメント力)」や、1on1コーチング/グループコーチングの共通技術、経営会議の活性化事例についてのお話でした。
1on1コーチング/グループコーチングの共通技術については、それぞれ同一テーマでエクササイズを実施。それを元に考察を深めるプロセスは、参加者の方の注目を集めていました。
~異なる背景を持った社員同士の関係づくりに向けて~ ダイバーシティ:女性のリーダーシップを開発するということ
齋藤 淳子 株式会社コーチ・エィ シニアエグゼクティブコーチ
青木 美知子 株式会社コーチ・エィ シニアビジネスコーチ
出産・育児・介護など、職場環境の変化が多い女性にとって、変化に柔軟に対応していくためには、自分自身が主体的になる必要があります。本分科会では、「女性が主体的に動くとはどういうことか」「どうすれば主体的になれるのか?」ということをインタラクティブなやり取りの中で参加者自身に考察していただきました。
「自分が主体的でない(被害者的)時にはどんなフレーズが流れているのか」「一度そうなってしまった時にどうなると主体的になれるのか」を参加者同士のディスカッションを通じて考えていただくことで、主体性に満ちた分科会となりました。
メジャメントが組織の未来を変える ~「人と人との関係性」を可視化する~
番匠 武蔵 コーチング研究所LLP
本分科会では、コーチング研究所が開発した「人と人との関係性」についてのメジャメント手法や、その重要性を中心に紹介しました。参加者にとって新しいものだったこともあり、メジャメントという概念やそれにまつわるプログラムに高い関心が寄せられました。
質疑応答では、実施した2回とも、時間が足りず終了後にスタッフが個別に対応するほどの盛況ぶり。「人と人の関係性」や「コミュニケーションの可視化」が関心の高い領域であることがうかがえる分科会でした。
チーム・コーチングの実現 ~チーム活性化にWebシステムを導入する
平野圭子 コーチ・トゥエンティワン ディレクター
チーム内のコミュニケーションを活性化するための簡便なWebシステム「ブーメラン・サーベイ」の活用法を紹介する分科会でした。実際のWeb画面をスクリーンに映しながら、使い方のデモンストレーションを行いました。参加者の方からは、機能面や使用目的などについて多くの質問が寄せられました。また、参加者の1/3の方が無料体験を申し込まれるなど、「ブーメラン・サーベイ」に関する関心の高さがうかがえました。
◆分科会 ワークショップ
初級者の方から数多くの実践を積んでいる方まで、幅広いニーズにお応えしたワークショップ形式の分科会を開催しました。中には80名を超える参加者が押し寄せた分科会もあるなど、各会場とも大盛況でした。
コーチング入門
石渡桃子 コーチ・トゥエンティワン 法人営業部
トレーニングの事前事後にリサーチを実施し効果測定を行う、ステークホルダーを特定してトレーニング受講者の周囲の人を巻き込む構造を作るなど、コーチング・トレーニングの最新事例が紹介されました。一番盛り上がったのは、周りの人とのディスカッションの時間。組織のコミュニケーション状態を表す特徴的な3つのピラミッドを見て、「あなたの組織はどの形に近いか?」「理想的な形に近づけるのにあなたにできることは?」という問いかけに活発な意見交換がありました。
コーチ・クリニック ~あなたのコーチ力を向上する(中級・上級編)~
平野圭子 コーチ・トゥエンティワン ディレクター
参加者同士でコーチングのロールプレイを実施し、講師がそこに解説を交えるというエクササイズを2組行いました。普段、コーチをする側もされる側も、解説をしてもらう機会はほとんど無いため、講師のコメントに参加者の皆さんが大きくうなずく場面もありました。
自分の強みを活かしたリーダーシップ
森川里美 有限会社マックス・ユア・ビズ代表
チェックシートを活用して、自分の強みに合ったリーダーシップのタイプを明らかにしました。その後、自分がどのタイプだったか挙手をしてもらい、周りの人と結果を見ながらディスカッションする時間が特に盛り上がっていました。2回の分科会とも80名ほどの人が参加し、講師と参加者の一体感もある大変盛況な分科会でした。
成果が出るコーチングのポイントを考える ~国際コーチ連盟のコア・コンピテンシーを参考に~
片山正人 プロコーチ 日本コーチ協会理事
成果が出せるコーチとして必要な事はクライアントを100%信じ、真正面から向き合うこと。またその為には自分自身を信じて「なりたい自分」を宣言すること。本分科会は、「なりたい自分」を隣同士で話し合ったり、決意表明をしていただいたりするなど、インタラクティブに行われました。コーチ経験豊富な片山氏の気遣いにより、終止なごやかな雰囲気で参加者の笑顔が絶えない分科会でした。
◆分科会 教育・医療・その他の分野
教育や医療の専門家の方々からも、興味深いコーチング活用事例を数多くお話しいただきました。
学校におけるリーダーシップ開発 ~コーチングを活用した人材育成(オン・ザ・ジョブ・コーチング~)
川本正秀 世田谷区立砧中学校校長
教育現場に長年身を置かれている川本氏から、最近の教育界をとりまくさまざまな課題のために、教員や校長先生に疲弊感が蔓延している状況についての紹介がありました。そして、それ故にコーチングができる「教員をマネジメントするミドル層」を育てる必要がある、ということを主張されていました。教育関連にコーチングのニーズは確実に存在することを印象づけた分科会でした。川本氏の場をなごませるトークに会場は盛り上がり、終了後まで質問が続いていました。
高等学校におけるコーチングとリーダーシップ開発 ~生徒への実践から見えてくること~
山村真理子 私立高校カウンセラー
高校生へのコミュニケーショントレーニングの授業を実践しているDVDを流すなど、実際に高校生へコーチ的な関わりをもつことによって、モチベーションの向上をはじめ、成績の向上にまで繋がるというお話が紹介されました。参加者からは、「高校生がこんなに話すようになるためにはどのような仕掛けが必要ですか?」といった質問も出て、コーチング実践の光景が大きなインパクトを与えていました。
生きる力 ~子供の自己肯定力を高めるコーチング~
土方良子 コーチングネットワーク静岡代表
小学生が実際に行ったワークを体験したり、参加者同士のディスカッションを通して、自己肯定力が高い人はどんな人か、生きる力とは何かについて考えを深める分科会でした。教育業界に従事されている方や今後教育業界にコーチングを導入していきたい方、子育てに活かしたいと思っている方など、様々な関心をお持ちの方が参加されました。
介護予防におけるコーチングの有効性
出江紳一 東北大学大学院医工学研究科 教授
看護師やケアマネジャーが実際の現場で、どのようなにコーチングスキルを使っているのか、また、3年にわたる研究の成果である、介護予防におけるコーチングの有効性を証明する豊富なエビデンスが紹介されました。普段、接することのない介護現場の生の事例はインパクトがあり、参加者の方からは感嘆の声があがっていました。
医療安全推進へのコーチング応用の提案
出江紳一 東北大学大学院医工学研究科 教授
この分科会では、「医療の現場でヒヤリハット(被害に繋がる可能性がある人的エラー)を生むコミュニケーションとは?」というテーマで、会場内の参加者同士がディスカッションをし、それぞれ体験談を出し合いました。参加者の中に、医療の現場や医薬品業界で働く方が数名いて、その方たちからのシェアや質問が、分科会全体を活性化させていました。ヒューマンエラー対策にコーチングによるコミュニケーションの有効性が実証される可能性を感じさせる分科会でした。
職場のメンタル問題とメンタルタフネス経営
渡辺卓 ライフバランスマネジメント研究所代表
今回初めてテーマとして設けたメンタルヘルスの分科会。実際に現場で起きているヘルスマネジメントの現状について、豊富な事例とともに具体的な数字をあげながら紹介しました。メンタルヘルスの対策を企業の社会的責任や、従業員のワークライフバランスを保持する責任、ストレス耐性の向上など、さまざま視点から取組む必要性が強調されました。ストレスに負けないための生活習慣や考え方については、熱心にメモをとりながら聞いている参加者も多くみられました。
天候にも恵まれ、多くの方の熱気に包まれた一日でした。