コーチングニュース Vol.223

感情のマネジメント

感情のマネジメント

あなたに、生まれてはじめて湧いた感情は、何ですか?
そのとき、なぜ、その感情が湧いたのでしょうか?

この問いは、感情のマネジメントをテーマに、私がコーチングを受けていた際、投げかけられたものです。私は、次のように答えました。

「私が、2歳になって、双子の妹が産まれました。そのときまでは、母が私を寝かしつけるとき、いつも私の方を向いてくれていました。ですが、妹たちが産まれてからは、母は、私の方を向かなくなりました。私は、母がこっちを向いてくれるよう、泣きわめきましたが、それは叶いませんでした。私は、母の背中を見ながら、母の後ろ髪を引っ張って、寝るようになりました。いま思うと、さみしかったんだ、と思います。」

人は、言葉を介して、物事を認識します。それは、感情も同じです。感情を表現する言葉を介して、人は、自分がその感情になっていることを認識します。「さみしい」という言葉を自分が持っていなければ、自分が「さみしいんだ」と気づくこともできません。そのことから、私は、感情をマネジメントするためには、感情を表現する言葉のレパートリーを増やす必要がある、と学びました。

上記は、あくまで、私がコーチを受ける(クライアント)側としての体験です。逆に、コーチとして、クライアントの感情のマネジメントがテーマとなった場合、何を意識したら良いのでしょうか。

日本コーチ協会での第20回年次大会演にて、マーシャ・レイノルズ氏は、次のように話していました(※1)。

「人は、こうした方が良い、とわかっているのに、行動を変えられないときがあります(早起きした方が良いと、わかっているのに、早起きできないように)。感情に身体が乗っ取られていると、感情が行動を選んでしまいます。まずは、自分の感情を理解する。自分が何を感じているのかを知る(考えていること、ではなく)。これができると、その感情を解き放つことができます。」

このことから、コーチは、「クライアントが、クライアント自身の感情を理解する」ように関わる必要がある、と言えるかもしれません。

では、そもそもコーチが、クライアントの感情を理解するためには、どうしたら良いのでしょうか。

ただ、ある論文(※2)によると、共感と、他者の視点を理解することは、脳内では、異なる動きをしているそうです。人は、相手に共感する場合、相手の目や顔、音を認知する領域が活性化される一方、他者の視点を理解する場合は、目には見えない、過去や未来を想像する領域が活性化されるそうです。

このことから、コーチは、クライアントの目や顔、音(声)を意識すると、クライアントに共感しやすくなるかもしれません。それは、クライアントの感情を理解することに繋がると思います。

では、クライアントの感情を理解できたとして、コーチが、「クライアントが、クライアント自身の感情を理解する」ように関わるには、どうしたら良いでしょうか。

感情は、身体の反応から引き起こされるものなので、コーチが、クライアントに対し、身体の反応を問いかけるのも、一つの方法だと思います。

先程とは別の論文(※3)では、「感情の身体地図」と称して、あらゆる感情が、身体のどの部分で働いているかが、まとめられています。幸せは、身体全体が熱くなり、怒りは、腕と、腹部より上側が熱くなるそうです(昔から、怒りの表現として、「頭に血が上る」、「腸が煮えくり返る」という言葉がありますが、的を射ていますね)。

これをもとに、「幸せはどこで感じるのか?」、「怒りはどこで感じるのか?」といったことをクライアントと一緒に探索してみても、面白いかもしれません。

コーチからの問いかけにより、クライアントが、自身の身体に意識を向け、どのように反応しているかを認識する。そこから、どのような感情が、引き起こされているのかを理解する。これにより、クライアントは、クライアント自身の感情を理解しやすくなると思います。

ここまで、感情のマネジメントがテーマとなった場合の、コーチングの手法をご紹介しました。

そして、感情のマネジメントについて、私が最も重要だと思っているのは、感情を言語化するときには、注意が必要だということです。

感情を言語化する、つまり「感情を自己と切り離し、認識の対象とする」ことは、その感情に浸れなくなることを意味します。例えば、嬉しいということを身体で目一杯感じているときは、「嬉しい」と認識する前のことだと思います(ちょうど、言葉を覚えていない赤ちゃんが、満面の笑みで嬉しさを表現するように)。

感情のマネジメントは、コーチングにおいて、大事なテーマの一つです。そのため、感情を言語化することの功罪も踏まえながら、ぜひ実践してみてください。

<参考文献>
※1
日本コーチ協会主催 第20回年次大会 マーシャ・レイノルズ氏 講演

※2
Empathy and Perspective Taking: How Social Skills Are Built, Neuroscience News, November 11, 2020

※3
Bodily maps of emotions, PNAS(Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America), January 14, 2014

日本コーチ協会 会員
豊川 諒