フィードバックを躊躇する背景にある思い込み
「コーチとして何が課題になっているか? どんな成長テーマがあるか?」
このテーマで話をすると、1年未満のルーキーコーチからも、コーチング歴10年を超える
ベテランコーチからも「フィードバック力」がテーマとして挙がることが多いと感じます。
コーチングの経験の長さにあまり関係なく、多くのコーチにとって、クライアントに
フィードバックを伝える行為は、不安を感じたり、躊躇が起きたりするもののようです。
クライアントから想定外の反応が返ってくることを恐れ、クライアントと築いてきた関係性が
壊れるのでは、と想像するのは、自然なことだと思います。
かく言う私も同様です。
クライアントに対して無防備になる
先日、「ICF認定資格のMCCレベルのコーチングとは?」というテーマで勉強会をしていた時に、
フィードバックに関して、自分自身の在り方を変えるヒントを見つけました。
参照したのは『ICF CORE COMPETENCIES RATING LEVELS』というACC、PCC、MCCの
それぞれのレベルにおけるコーチングの違いを書いた資料です。
ICFのWebページより誰でもダウンロードできますのでぜひご覧になってみてください。
https://coachfederation.org/app/uploads/2017/12/ICFCompetenciesLevelsTable.pdf
2019年11月に改訂される前の旧コアコンピテンシーに基づいて作成された資料ですが、
現在のコンピテンシーと照らし合わせながら参照しても、全く問題ありません。
私がヒントを貰ったのはMCCレベルのコーチングの特徴として書かれていた以下の文章です。
3. Establishing Trust and Intimacy with the Client ※1
クライアントと親密な関係性を築いている
・Coach is willing to be vulnerable with client and have client be vulnerable with coach.
コーチは,クライアントに対して無防備になり、
クライアントがコーチに対して無防備になることを望んでいる。
上記を読んだ時、フィードバックしようとするときに自分の内側に生まれる不安や躊躇の背景には
「クライアントの前では完璧なコーチングを提供する存在でなければならない」
という思い込みが存在していることに気づきました。
「フィードバック」はコーチングにおいて重要なスキルです。
そのフィードバックで失敗してしまう、つまり、無能なコーチの自分が露呈することを恐れる在り方は、
とても防御的です。
「無防備」とは、自分が不完全であることを受け入れ、それをクライアントに対してもオープンにし、
かつ正直でいることではないかと思います。
また、「クライアントに対しても無防備になることを望む」ということは、クライアントが
フィードバックに対して感情的になる等の様々な反応を示すことを、コーチが受け入れる
ということでもあるでしょう。
コーチが的確なフィードバックをし、クライアントがそれを冷静に受け止め、
「気づきがありました!」というリアクションをするという、理想的な流ればかりを追い求めるから
苦しくなるのかもしれません。
完全にパートナーになる
自分はまだまだフィードバックについて修行中の身なのだという立場に移動する。
クライアントも同様に「フィードバックを受ける」ということについて修行中の身である。
そんな修行中の二人が、お互いにフィードバックを交わす。
自分たちの交換したフィードバックについてさらにフィードバックを交わす。
この関係性は、コーチとクライアントがお互いにフィードバックの能力を高めあう
パートナーであると言えるのではないでしょうか。
実は前述の『ICF CORE COMPETENCIES RATING LEVELS』にはこのような記述もあります。
4. Coaching Presence ※2
コーチングが起こっている
・The coach is in fully partnered conversation with client.
コーチはクライアントと完全にパートナーとして対話をしている。
なるほど。そういうことか。
※1 改訂版ICF コア・コンピテンシー 4.Cultivates Trust and Safety(信頼と安全を育む)に相当
※2 改訂版ICF コア・コンピテンシーでは 5.Maintains Presence (今ここにあり続ける)に相当
日本コーチ協会 正会員
村方 仁
コーチングニュース Vol.239
2022年05月26日