フィードバックを受け止める
あなたはフィードバックをもらうことが得意ですか? 苦手ですか?
フィードバックを受け止める力を10点満点で表すとすると、何点でしょうか?
フィードバックを受け止める瞬間に、なんの反応も感情の揺らぎも
起こらない人は、まれなのではないでしょうか。
かくいう私も、フィードバックに対する反応をマネージすることに
挑戦中の一人です。
フィードバックに慣れるためにも自らフィードバックを取りに行くことを
日々意識しているのですが、取りに行ったからといって、
フィードバックを受け止められているかといえば、そんなことはありません。
取りに行くことと受け止められるかは、別の課題だと感じることも多いです。
自分はどれくらいフィードバックを受け止められているか?
その問いを自分に問いかけるときに、いつも思い出す体験があります。
「フィードバックを求めてきたのは、君でしょ?」
とあるプロジェクトの運営が一段落したときのこと。
そのプロジェクトは先輩と私の二人で担当しており、
お客様とのワークショップの進行を先輩にお願いしていました。
ワークショップまでは、自分なりに精一杯、できる限りの準備に努めました。
しかし、準備段階からずっと何かがうまくいっていない、ぎくしゃくした感じがあり、
それを解消することのないままワークショップ当日を迎えました。
ワークショップが終わっても、どうもお互いの中にもやもやした感情が残った
ままになっている気がして、私は先輩にフィードバックをもらいに行きました。
「これからも先輩と一緒にいい仕事がしたいから、
私の仕事の進め方や姿勢について、フィードバックをいただけませんか?」
先輩は私の仕事の進め方にたくさんの不満を持っていたようです。
厳しいフィードバックがたくさん返ってきました。
先輩の厳しい言葉を聞きながら、よくぞその不満を微塵も見せずに、
すばらしいワークショップをやりきってくださったと、先輩のプロ意識に頭が下がる思いでした。
と同時に、聴いている私の中には、更にモヤモヤが溜まっていきました。
(そんな風に受け止めていたのか!
私の意図とまったく違うことが起こっているな…)
(そう思ったなら、その時に言ってくれたらいいのに)
(そもそも、そんなつもりで行動したんじゃない、誤解されてる!)
(・・・・)
耐えきれなくなった私は、思わず
「いや、そんなことはありません。
そういうつもりで言ったわけでも、やったわけでもないんです。
私はこう考えて、こういうことをやったつもりなんです」
と反論してしまいました。
そうすると、少し呆れた顔をしながら先輩が言いました。
「石川さんの考えがどうであれ、僕がそう思った、という事実は変わらないんだから、
まずは石川さんが受け止めてよ。フィードバックを求めてきたのは、君でしょ?」
無意識に「受け止めていない」
先輩のその一言は私にガーンと響き、体が一気に硬直しました。
そして、私たちの座っていたオフィスのオープンスペースの周囲のざわめきが、
スっと引いて聞こえなくなったことをよく覚えています。
「フィードバックは、自分が成長するための他人からのギフトである」と
思っていたはずですが、どうも知らないうちにフィードバックを選り好んでいたようです。
本当は、あのぎくしゃくしていた準備の最中、私が何を感じていたか聞いてほしかった。
目の前にいる先輩にフィードバックをもらいに行ったくせに、
本当はフィードバックをもらうふりして、「私はあの時こうだった!」と弁明をしたかった。
「そういう考え方もあるよね、僕も気づけなくてごめんね」
と言ってほしかった。
そういう自分がいたことに気づきました。
私は、なんて自分勝手だったのだろうか。
今度はカーッと体が熱くなり、急に恥ずかしくなってきました。
私は無意識的に、欲しいフィードバックだけを受け止めているのではないか。
自分のロジックに沿うものだけ受け止めようとはしていなかったか。
自分の前提やナラティブと異なるフィードバックが来たら、
相手の受け止め方を正そうとしていなかったか。
そこまでぐるぐる考えて、ようやく
「目の前に座っている先輩は、あの時どう感じていたんだろう?」と、
聞く用意が整いました。
「…すみませんでした。
改めて、今回私と仕事をしてくれる中で、先輩が思ったこと、
感じたことをそのままに教えてくれませんか?」
と、その時に私がきちんと言えたかどうかはもう覚えていません。
相手が思ったことは、相手が思ったことで、相手が思ったことだ。
私はいまも、日々、いろいろな人とのコンフリクトやざらつきを経験しています。
なかなか一朝一夕でフィードバックを受け止める力は高まりませんが、
あの先輩とのやり取りがあったからこそ、今の私には
フィードバックに対して「相手が思っていることだ」というリスペクトを
忘れずにいられるのだと思います。
フィードバックを丸ごと自分に取り入れるかはどうかは別として、
まずは伝えてくれたことを大事に受け止める、尊重する。
相手が思ったことは、相手が思ったことで、相手が思ったことだ。
相手は、自分とは違う人であること。
そして、自分とは異なる世界の見方をしている相手にこそ、
自分に発見の可能性が生まれること。
そのありがたさを感じるとともに、
そういう気持ちで、探索的に人の話が聞けるようになった機会を作ってくれた先輩に、
この場を借りて、心からの感謝を伝えたいと思っています。
先輩、また一緒に仕事しましょうね!
日本コーチ協会 正会員
石川 詩乃
コーチングニュース Vol.254
2023年09月05日