コーチングニュース Vol.286

フィードバックは、どこに向いているのか?

フィードバックは、できるだけ率直なほうがよい。

私はそう考えています。
遠回しに言うよりも、時に厳しい言葉になったとしても、思ったことや感じたことを
そのまま伝えたほうがよい。コーチとしても、上司としても、その姿勢を大切にしてきました。

ただ、一つ気になることがあります。
同じ率直な言葉でも、軽やかに受け取られるときと、どこか重く受け取られるときがある。
その違いは、どこから生まれるのでしょうか。

■娘が受けた率直なフィードバック

先日、娘の絵画教室の体験会に付き添いました。

体験会で、娘は鳥を描いていました。
親から見ると、十分うまく描けているように見えました。そこへ先生が来て、こう言いました。

「この鳥は、こんなにデブなの?」

かなり率直な言葉に、私は一瞬どきっとしました。しかし娘は、鳥を見直し、そのまま描き直し
始めました。先生は続けます。

「ここ、もっと(体が)締まっているよね。飛ぶなら、ここ軽くないと」

言葉は矢継ぎ早で、率直でした。「もしよければ」や「どうかな」といった印象をやわらかく
する前置きもなく、率直な指摘が続きます。それでも、娘を責めているような響きはありませんでした。

体験後、娘に「入会どうする?」と聞くと、すぐにこう言いました。

「ここ、入りたい」

私は正直、先生のストレートな物言いに、娘は少し迷うのではないかと思っていました。でも娘は、
迷う様子もなく即答でした。フィードバックが人の行動を後押しする瞬間を見た気がしました。

■フィードバックの重さを決めるもの

一方で、率直なフィードバックは、人の行動を止めてしまうことがあります。
私自身、部下からこう言われたことがあります。

「仕事のことで質問しただけなのに、毎回たくさんフィードバックされるので、相談しにくいです」

当時の私は部下を早く育てたいという思いがあり、質問されたことだけでなく、その周辺にある部下の
姿勢や考え方にまで話を広げ、

「こういう考え方もある」
「ここは気をつけたほうがいい」
「もしかすると、こういう傾向があるかもしれない」

とフィードバックをしていたのです。

それは「フィードバックは率直なほうがよい、感じたことは伝えたほうがよい」という考えから
くるものでした。しかし結果的には、相手が求めていないところまで踏み込んでいたのかもしれません。

娘の体験を通じて、部下とのやりとりを振り返り、私はあることに気がつきました。
それは、フィードバックの重さを決めるのは、率直さそのものではなく「何に向けたフィードバックなのか」、
つまり「目標、目指す場所、望む未来」を互いに共有し、同意できているかということです。

絵画教室の先生は、娘が言葉にしていなくても「絵がうまくなりたい」という娘の思いを感じ取っていた
のだと思います。

一方で、私が部下にしていたのは、「こんな考えを持ってほしい」「こういう姿勢でいてほしい」といった
「私が望む部下の未来」に対してのフィードバックでした。そこに、「部下の望む未来」はありません。

■あなたのフィードバックはどこに向けられたものか?

マーカス・バッキンガムは「フィードバックの誤謬(※)」の中でこう述べています。

「弱点や欠点にフォーカスを当てることは、学習を促進せずに阻害する」

実際、私は人事の仕事をしていますが、人事評価などを通じて、フィードバックが相手の行動を止めて
しまう場面をたくさん見てきました。

受け取れない。
防御的になる。
信頼関係が揺らぐ。
ときには、その人が組織を離れてしまうことさえあります。

こうしたことが起こってしまうのは、部下の望む未来と、組織の望む未来のすり合わせが丁寧に
行われていなかったからではないでしょうか。もちろん、部下の望む未来が、組織の望む未来とズレている
ことも往々にしてあるでしょう。そして多くの場合、上司はその未来に対して無意識に「ダメ出し」して
しまうのかもしれません。しかし、互いの未来を丁寧にすり合わせない限り、フィードバックは効果を
発揮しないのです。

さらにフィードバックをする際に意識したいことがあります。それは「人」ではなく「事象」にフォーカスを
当てることです。

絵画教室の先生は「娘の顔」ではなく、娘が描いた「紙の上の鳥」を見ながら話していました。つまり
「この子」はどうかではなく、「この絵」はどうかを見ていたのです。
私たちはつい、「人」にフォーカスしがちですが、「事象」にフォーカスを当てることで、フィードバックを
軽やかに受け取ってもらい、相手の行動を促進することができるのかもしれません。

フィードバックが相手にどう受け取られるかは、相手との関係性など、ほかにもさまざまな要素が
影響するでしょう。
しかし最も重要なのは、行き先が共有されていることであり、そのうえで何に向けて話しているのか、どこに
フォーカスしているのかということ。これらを常に意識し、意図的に選択することでフィードバックは効果を
発揮するのだと思います。

あなたのフィードバックは、いま、どこに向いていますか。

※「フィードバックの誤謬」
マーカス・バッキンガム、アシュリー・グッドール、ハーバードビジネスレビュー、2019年10月号


日本コーチ協会 正会員 
小林裕介