コーチングニュース Vol.232

コロナ禍の幸福感の戦略

ここにPwCが実施した「第24回世界CEO意識調査」2021年版結果報告があります。
レポートによれば、経営に対する脅威の一つとして「従業員の健康の悪化や幸福度の低下」
が挙げられています。
長期化するコロナ禍が、移動の自由や対面でのコミュニケーションの阻害を招き、従業員の
ストレスや孤独を高めていることもあるのではないでしょうか?

それでは、何故CEOは「従業員の幸福度の低下」を経営に対する1つの大きな脅威と捉えてい
るのでしょうか?
一つの要因としては、安定的に好業績をあげている組織においては、幸福感を抱く社員が高い
パフォーマンスを発揮している事実があるからだと思います。

心理学者のソーニァ・リュボミルスキーらの研究によれば、幸福感の高い社員の生産性は平均
で31%、売上で37%、創造性で3倍高いと報告しています。
したがって、今日CEOに対してなにかしらの「幸福感の戦略」が求められているといってもいい
のではないでしょうか?


さて、幸福感の創出について、日立製作所の矢野和夫氏の研究がその参考になります。
矢野氏は、ウェラブルセンサーで取得した人間のコミュニケーションデータ等から、
コミュニケーションと幸福には、以下のような関係性があると説きます。

一人一人の幸福度が高く、生産性の高い組織に定量的に計測できるコミュニケーション特徴として、

1.人と人とのつながりを線で示すソーシャルグラフの三角形が多い。
  自分とつながりのある人同士もつながっていること。

2.5~15分程度の短いコミュニケーションの頻度が高い。
 つまり、気軽にコミュニケーションできる関係にあり、しかも、そのコミュニケーションは双方向
 であること。

3.コミュニケーションする相手との体の動きが同期している。
 声の調子や姿勢などが同期していること。


さて、筆者の体験をここにシェアしたいと思います。

私自身は、リモートワークになってから、毎日、朝、夕方の15分、チームの数人と、リモートで対話
する機会を設けています。
15分の中では、チーム5人で話したり、2人組で話したりもしますが、内容は朝なら、
「本日の仕事で一番注力したいものは何か?」
夕方なら、
「本日した仕事で学んだことは?」など。
シンプルな「問い」を間において、自由に対話する。時には、雑談も、その場で行う。

先の矢野氏の述べるように、頻度の高いコミュニケーションの機会が担保され、また、いろんな組み
合わせでも、話すことで自分とつながりのある人同士もつながっていることが実感できます。

主観的にはこの時間があるだけで、朝は仕事に向かうエネルギーを促進し、夕方は日中いろんなことが
あったとしても、一日を完了させる場になっています。

また、定期的に気軽にコミュニケーションをとれる場があることは、自分に居場所を与え、精神的な安定や、
幸福感になにかしらのインパクトをもたらしていると実感しています。

リモート化でも、短い時間でもよいので、定期的に、安心で気軽に話せる場が、設定されていれば、
社員の幸福度はあるレベル担保され、向上していくと思えてきます。


日本コーチ協会 会員
市毛 智雄

参照文献:
1. 第24回世界CEO意識調査
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/ceo-survey.html

2.Harvard Business Review 2012年5月号 「幸福の戦略」ダイヤモンド社
PQポジティブ思考の知能指数 ショーン・エイカー著

3.山口周著『自由になるための技術 リベラルアーツ』講談社