私は、1年半前に海外拠点の拠点長に就任して以来、コーチをつけ続けています。
これまでそのコーチと24回のセッションを重ねてきました。
コーチをつけていた甲斐もあり、役割や環境の大きな変化の中においても、新しい<組織のメンバーと
の関係構築は順調でしたし、初年度については目標達成率も高く、コーチングの成果がしっかりと
表れていると感じていました。
ところが、今年に入って、業績がガクッと下がってしまいました。
業績には目立った改善も見られないまま年末に差し掛かり、私は、このタイミングでコーチと振り
返りセッションをもとうと思いました。
フィードバックをもらいながら、自分の成長や成果を振り返りつつ、拠点の立て直しに向けて自分に
できることを棚卸ししようと考えたからです。
コーチにオフィスまで来ていただいて、2名のマネージャーを含む拠点の7名のスタッフから、私に
対するフィードバックを集めてもらうことをお願いしました。
というのも、私には直接言いづらいことも、コーチに聞いてもらえるのではないかと考えたからです。
コーチには、スタッフから集めたフィードバックとともに、コーチ自身がこの1年間で感じていた
ことを直接フィードバックしてほしいと伝えました。
フィードバックでわかった自分のブラインドスポット
スタッフからのフィードバックを聞いて、驚くことがたくさんありました。
認識が合っていたのは、心理的安全性の高いチームを創れている、ということです。
スタッフは、なんでも話せるし、透明性も高いと感じてくれていました。
一方で、思いもかけないフィードバックだったのは、拠点のビジョンが共有されていないということでした。
正直とてもショックでした。
なぜなら、自分では、ビジョンを伝え続けていると思っていたからです。
「たいそうな目的を掲げてはいるけど、そこにたどり着く道筋が見えない。
目の前のことに忙しく集中しているが、長期ビジョンとのつながりが見えない」というコメントを聞き、
「見えないなら、そう言ってほしい。言ってくれないと分からないじゃないか」
という相手を非難したくなる内なる声が上がってきました。
ただ、一方で、どこか納得している自分もいるような気がしました。
自分の語るビジョンと現実とのギャップは実際に大きく、どのようにそのビジョンを実現するのかを示すこと
のできていない自分にも思い当たったからです。
スタッフからのフィードバックを伝えてくれたあと、コーチは、私とのセッションの振り返りを始めました。
そこでコーチは、ただただセッションサマリを読み上げるのです。
1回目のセッションは●月●日、拠点長就任の不安や葛藤を声にする
2回目のセッションは●月●日、ビジョンと目標を楽しそうに語る、メンバーとも共有すると約束する
3回目のセッションは…
おおよそ、時間にしては10分程度でしょうか。私には30分以上にも聞こえました。
走馬灯のようにこの1年間が思い返されます。
そして最後にコーチから、問われました。
「これを聞いて、あなた自身はどう思いますか?」
1年前から「メンバーにビジョンを共有する」と言っているのに、伝わっていないと言われた直後なので、
自分自身どう成長できたのか、わからなくなりました。結局何も変わっていないのではないかと
思いました。
すると、そんな私に、コーチから3つの問いが差し出されました。
・本当にやりたいことは何なのか?
・あなた自身は何しにこの地に来たのか、やり遂げる覚悟はあるのか?
・自分らしさを活かしたリーダーシップって何だろうか?
成果が出ている時にはあまり問題となっていなかった問いでした。
フィードバックセッションの1時間は、ジェットコースターのように感情が揺れ動きました。
これを書いている今も、整理しきれているとは言えません。
うまくいっていること、いかなかったこと、これまで避けてきたこと、さまざまなことが目の前に現れた
感覚です。
自分自身のこれまでのセルフイメージではどうやらうまくいかない現実に直面しました。
コーチングで新たな生き方の軸を手に入れる
今日、またコーチとセッションがありました。コーチからのセッションの問いはたった一つです。
「あなた自身は、何を変えますか?」
この問いに答えを出すのは難しく、いろいろと言葉を紡ぎながら最後にコーチと共にたどり着いたのは、
「自分自身は何をしたいのか」という軸をもって生きていくということでした。
これまでのセッションの中で向き合ってきた問いはすべて「自分がどうするか」ということを考える
ものでした。
思い返すと、これまで「良い拠点長になる」「良い組織を創る」「良い業績を出す」ことに必死でした。
私の中で「良い●●」は、上司や部下が期待するもの、つまり「周囲にお墨付きをもらえること」だった気が
します。
そしてこれらを追い求めていくなかで、私はいつも他人と比較してきました。
他者と比較して自分のほうができていたら良い、他者のほうができていたら、駄目というように、他者との
比較で、自分の価値を上下させていたのです。
これには私の物事を「良い/悪い」という二極化で考える癖も影響していました。
その二極化に陥ると、第三の選択肢が見出せなくなり、悪循環にハマると抜け出せなくなってしまうことが
あります。
その癖を手放す、なくすのは難しいかもしれません。
でもそこに「自分は何をしたいのか」という問いを軸として加えることで、新しい局面が立ち上がってくる
ような感覚を覚え、心がスーッと軽くなっていく感じがしました。
もしコーチがいなければ、この選択肢にたどり着くことはできなかったと思います。
自分の癖には気づいていたものの、その癖を「良い/悪い」の二極化で考え、癖を修正することに意識がいって
しまったような気がします。
コーチングの価値を改めて感じたプロセスでした。
今は新しいパターンでメンバーたちと関わっていけることが楽しみです。
クライアントの皆さんはどんな成長を遂げていますか?
コーチとして、あなたはクライアントとどんな振り返りを実施しますか?
日本コーチ協会 正会員
立入 啓浩
