コーチングニュース Vol.243

ひとつの問いが示す、あなたのコーチングに影響を与えているもの


ひとつの問いが示す、あなたのコーチングに影響を与えているもの

「コーチがつく(コーチをつける)ことによって得られる最大の価値とは何か?」
あなたはコーチとして、この問いにどんな言葉で答えますか?

この問いは私の密かなマイブーム。
最近コーチ仲間に次々とこの問いを投げかけては、対話を楽しんでいます。

なぜならこの問いに対してどのような言葉を持っているかによって、
そのコーチのコーチングが決まるのではないかと思うからです。

これまで、この問いを投げかけて、さまざまな考え方に触れてきました。
今回は代表して2人のコーチの言葉を紹介します。

コーチ歴5年のAさん

「コーチがつく価値は、ラーニング・アジリティ(学習俊敏性)が
 高まることだと思います。ラーニング・アジリティが高い人は、
 どんどん成長して自分の可能性を広げていくことができるので、
 結果的にチャレンジングな目標を達成する確率も上がると思うんです。
 コーチがつかなくてもラーニング・アジリティは上げられるけど、
 コーチがついたほうが、遥かに成長角度を高めることが出来ると思います」

私はAさんに続けて問いました。

「あなたがコーチをするときは、どんなことにフォーカスをしているのですか?」
「ラーニング・アジリティの高め方は人それぞれなので、
 まずはクライアント自身が自分のラーニング・アジリティとどのように
 向き合っているのかを客観視できるようにコーチングをしています。
 もう1つはフィードバック。
 私はフィードバックはラーニング・アジリティを維持向上するのに
 必要不可欠なものだと思っているので、クライアントとの間でフィードバックを
 交換することは結構意識しています。
 さらに言えば、コーチ自身が自分のラーニング・アジリティと
 どう向き合っているかも大切ですよね」

Aさんをコーチにつけたら何が得られるのか、
どのようなコーチングを受けられるのかがイメージできて、
Aさんのコーチングを受けてみたいと思いました。

コーチ歴2年のBさん

Bさんは「価値とは何か?」の問いに対して、最初はうまく言語化できない様子でした。
しかし15分ほど対話をしていく中で、最後はこんなことを話してくれました。

「多くの人が自分に嘘をついたり、
 自分自身に対して本当の気持ちをごまかしたりしながら日常を生きているところが
 あると思うんです。
 自分は本当は何を考えているのか、どうしたいと思っているのか、
 何を感じているのかについて向き合って、正直になることを
 コーチングは助けてくれます。
 これは自分自身がコーチングを受けて実感したことなんです。
 過去の私がそうだったように、意外と自分に正直に向き合うのって難しかったり、
 不快感があったりするので、コーチの助けはとても重要だと思います」

30分ほど対話をした後、Bさんから思いがけず感謝の言葉をもらいました。

「話せてよかったです。あるクライアントさんへのコーチング・セッションが
 上手くいかなくて、次回はどんな風にコーチングを進めようか迷っていたんです。
 今日、コーチングの価値について話してみて自分がコーチとしてやるべきことが
 明確になりました。」

そして、この対話からさらに2週間後、Bさんから悩んでいたクライアントとの
コーチング・セッションがとても良い時間になったという
笑顔の報告までいただきました。

これらのことを逆説的に考えてみれば「コーチがつく価値とは何か?」について、
あやふやな言葉しか出てこないコーチのコーチングとは何たるや。


私の考える「コーチがつく最大の価値」

最後に、私自身が考えるコーチがつく最大の価値です。

私はコーチがつく価値とは
「自分自身の無意識のモノの見方、判断の傾向を認識することができるようになる」
に尽きるのではないかと思っています。

自分の無意識のモノの見方、判断の傾向に気づくことが出来れば、
向き合う事象について別の角度から見ることができ、そこから新しい解釈を
得るチャンスが生まれます。

私たちはよく、過去の自分を振り返り
「あの時は●●という考え方しかできなかったなぁ」
と、若かりし頃の自分をほろ苦く思い出すことがありますが、
それは新しい解釈が出来るようになった自分に、
人としての成長や成熟を感じるからこそではないでしょうか。

上記のように考える私は、クライアントの発言に対して
「正しい/間違っている」の解釈を加えないよう、自分自身を真っ白で
フラットな状態に保つように意識しながら話を聞いています。

そして、クライアントがさも「当然●●である」というスタンスで話すことに
気づいたときに、そのことを伝えて

「なぜその考えが生まれたのか?」
「本当に他の見方や考え方はないのだろうか?」

という観点で問いを共有し、クライアントとともに探索を始めます。

・・という自分の考え方についても「本当にこれが最大の価値なのだろうか?」
という立場に立ってみる。

「コーチを付ける最大の価値とは何か?」

この問いに向き合い続けることは、コーチとして成長し続けるための有効な
アプローチの一つだと感じる今日この頃です。


日本コーチ協会 正会員
村方 仁