タイの拠点長になって1年半ほどたったころ、部下の一人からそう問われました。
お世話になっているお客さま向けのイベントを開催し、メンバーと振り返っていた時の
ことです。イベントは盛況で、お客さまの満足度も高く、私自身も手応えを感じていました。
それだけに、部下の言葉は予想外でした。
真意をつかみきれず、「どういう意味ですか」と聞き返すと、彼女はこう答えました。
「確かにイベントは素晴らしかったです。ただ、私たちももっと貢献できたと思うんです」
うまくいったという安心感は、すぐに消えました。その言葉の奥に、「私たちを、考える主体と
してどこまで信頼しているのですか」と問われたように感じたからです。
■一緒に考えるリーダーだったはずの私
もともと私は、トップダウンになりやすい性格だと自覚しています。自分で考え、決め、
そのまま前へ進みたくなる。かつて、それによって失敗した経験もありました。
だからこそ、この10年は意識して周囲の意見を聞き、人を巻き込んできました。特にコーチに
なってからは、相手の可能性を信じ、その人とともに考えることを大切にしてきました。
「自分はもう、トップダウン型ではない。メンバーと一緒に考えるリーダーである」いつしか、
そう認識するようになっていました。
だからこそ、部下からの問いはイベントの進め方への指摘以上に、私のセルフイメージを
揺さぶりました。
■意見は聞いた。しかし、一緒には考えていなかった
イベントまでのプロセスを振り返ると、目的も、集客も、コンテンツも、ほとんど私一人で
決めていました。
メンバーに意見を聞いていなかったわけではありません。しかし、私の中ではすでに方向性も
答えもほぼ決まっており、主にお願いしたのは会場手配や当日の運営でした。
彼らから意見を聞いていたので、自分では「巻き込んでいる」と思っていました。けれど、
メンバーが考え始める前に、私は考え終えていたのです。
私がしていたのは、共に考えることではなく、自分の考えを伝え、理解してもらい、動いてもらう
ことでした。
■責任感が考える余地を奪っていた
なぜ、同じことを繰り返したのか。
私の中には、メンバーと一緒に拠点を運営したいという思いと、「拠点長なのだから、自分が
方向性を示し、判断し、責任を取るべきだ」という思いが同居していました。
イベントを成功させたい。
お客さまの期待に応えたい。
メンバーに余計な負担をかけたくない。
そう考えるほど、自分で抱え込み、自分で決めるようになっていました。
私にとっては責任を果たすための行動でした。しかしメンバーにとっては、自分たちが考える
余地を奪われる体験だったのかもしれません。
ここに、私にとって最も痛い気づきがありました。
相手のために考えて、実践しているつもりでも、相手と一緒に考えていなければ、結果として
相手を外側に置いてしまうことがある。
「私たちがいる意味は何ですか?」という問いは、一緒に考えているつもりでいた私を目覚め
させてくれました。
■答えではなく、考えるプロセスを共有する
その後、今年の拠点戦略を、全メンバーと一日かけて創りました。私のたたき台に意見を
求めるのではなく、一人ひとりが拠点に期待すること、変えたいことから対話を始め
「一緒に考え、一緒に創りたい」と伝えました。
以前より時間はかかりましたが、一人で考えるよりも明らかに良いものが生まれました。
メンバーにも「これは自分たちの戦略だ」というオーナーシップが生まれたように感じます。
最近では、「立入さんの考えを教えてください」ではなく、「私はこう思いますが、立入さんは
どう思いますか」と言われることが増えました。
メンバーの一人は、「誰かと考えられる空気ができて、自分の意見に自信を持てるようになった」と
話してくれました。
一緒に考えるとは、多くの意見を集めることではなく、一人ひとりが「自分も考えてよい」
「自分の考えには意味がある」と感じられる場をつくることなのだと思います。これは、コーチングに
おいても同じです。
■今、私が向き合っている問い
もちろん、今も拠点長として、急いで判断し、一人で決めなければならない場面があります。
一人で決めるのか。誰かと共に考えるのか。
その境界に立った時、最後に自分へ問いかけるのは、この二つです。
「この拠点は、私だけのものになっていないだろうか」
「私たちの拠点として、一緒に創れているだろうか」
この問いを持ち続けることが、今の私にとってのリーダーシップであり、コーチとしての実践
なのだと思います。
皆さんは、リーダーとして、コーチとして、日々どのような問いと向き合っていますか。
日本コーチ協会 正会員
立入啓浩
