2024年の6月に、大きく役割が変わるトランジションのタイミングを迎えました。
3月にタイの拠点へ赴任し、同年6月から拠点長になることが決定したのです。
初の海外、初のローカルスタッフとのコミュニケーション、とわかりやすい大きなトランジションです。
恥ずかしながら湧いてきた感情は次のようなものです。
・自分自身に拠点長が務まるのだろうか?
・ローカル社員に認められるだろうか?
・自分のパフォーマンスが悪かったら、帰る場所は日本にあるだろうか?
・他の人の方が適任だと思われないだろうか?
と、数え出したらキリのないくらい、日々不安に悩まされる日々でした。
私は自分がコーチであると同時に、管理職になって以来、ずっとコーチをつけています。
トランジションを迎え、私はコーチに「トランジションの成功に向けてコーチを受けたい」と伝えました。
それから約半年。
この間、コーチングを受けることの価値を深く体感すると同時に、コーチとして自らが意識すべきことを
体験しました。
コーチと何を扱ったか
コーチとの間でまずテーマとなったのは、「トランジションで私の何が変わるのか」ということです。
拠点長になるという役職の変更以外にも、変わることは様々ありました。
働く場所が変わる、役職が変わる、関わる人が変わる、扱う言葉が変わる…私はこうした多くの変化の中で
漠然とした不安の中にいました。そしてこの不安が自分のエネルギーを奪っていることにも気づいていました。
そこで、まずは今回のトランジションにおいて体験しているさまざまな変化をリストアップし、その中でも
自分にとって大事なもの、一番影響の大きいものは何かを決めていきました。
予想外だったのは、それらを特定するだけで数か月間を有してしまったことです。なかなか前進しない
状態のセッションが続く中で、あるときコーチから次のフィードバックをもらいました。
「これまでは周囲と協力して物事を進めてきた立入さんが、急に一人になっているように見える」
このフィードバックをきっかけに、自分がタイのスタッフとの関係構築に自信がなく、無意識のうちに
関係を希薄なものにしようとしていることに気付きました。同時に、自分自身のテーマを発見でき、
霧が晴れるような感覚がありました。
その後のコーチからの「結局、立入さんは何をやりたいの?」という問いかけに対して、軽やかに、
そして自然と「ダイバーシティを活かした経営チームを創っていきたい」と答えていました。
コーチが意識していたこと
コーチング開始から半年経ち、振り返りのタイミングでコーチにこう聞いてみました。
「トランジション後の数か月間は、コーチングというよりは、私の悩み相談のようなセッションに
なっていたと思う。自分の答えは教科書的で、正直話していても本心を話している感じもしなかった。
そんな私に対して、どんな思いでコーチをされていたんですか?」
コーチから返ってきたのは自分にとっては想定外の言葉でした。
「私は、あなたが直面しているタフなトランジションを必ず乗り越えることが出来る、と信じています。
そしてここ最近は、私の問いに対して、自分の言葉で語るように私には聞こえますよ」
コーチが私を信じてくれていたということが、非常に嬉しく、ますます変化に対して向き合うエネルギーが
湧いてきました。
この時のことは今でも鮮明に覚えています。
同時にこのコーチのあり方は、自分自身のコーチとしてのあり方を振り返る機会にもなりました。
クライアントを信じる
以来、私の問いかけやフィードバックの仕方に変化が起こり始めています。
これまでは、クライアントが達成できそうなことを前提にして問いを考えていたことが多かったのですが、
「クライアントは成功することが出来る力を持っている。だとしたら、どんな言葉が浮かぶだろうか」と
自問してから言葉を出すようになりました。
例えば「今お話しいただいた目標は、○○さん一人でもきっと達成できる。
コーチと一緒だからこそ、目指せる目標を創りましょうよ」といった、より高い目標や挑戦的な問いです。
クライアントがコーチをつけると決めた時、一人では実現することのできない変化に挑戦しようとしています。
難しい変化に直面しているクライアントであればあるほど、私たちは「良い質問をしなければ、
良いフィードバックをしなければ」とコーチのスキルにフォーカスしてしまいがちです。
しかし、もっとも大事なことは、クライアントの可能性を信じることなのかもしれません。
* * *
私のコーチは私の話しを毎回真剣に聞いてくれます。
私が自分の道を見つけることを信じ、待ち続けてくれます。
まだまだ自分のトランジションは始まったばかりです。
ようやくチーム皆で来年のビジョンを描き、パーパスを創り、大きな山を登ることに向けて走り出す
ことが出来ました。
本番はこれからです。
コーチがいなければ、不安な中で目の前の業務に向き合うのみで、将来をローカルメンバーと
共に描くことは実現しなかったです。
あなたのクライアントはどんなトランジションに直面していますか?
あなたは、コーチとしてクライアントの成功への信頼をどのようにして表現していますか?
日本コーチ協会 正会員
立入 啓浩
コーチングニュース Vol.271
2025年05月28日