コーチングニュース Vol.237

まだまだ広がる「コーチング」の世界

最近、印象深いコーチング・セッションがありました。

クライアントのAさんとのコーチング・セッションです。
Aさんは、数万人規模の企業のとあるグループ会社の代表を務めており、
グループ会社役員からの勧めでエグゼクティブ・コーチングを始めた方です。

Aさんとのコーチングは、私にとっては少々つらい時間でした。
Aさんはいつも、自分の考えや、実践した行動を話してくれるのですが、そこからは
「もう自分で考えて、こんなに行動しているから十分でしょ? 
 他にコーチと考えるべきことなんて、特にないと思います」
という気持ちがにじみ出ており、私はその場で対話が起こせていないもどかしさを感じていました。

もちろん、いまいち盛り上がりません。

どんな問いを持ち込めたら良いだろう?
必死になって色々と問いかけてみるものの、なんだか「ハマらない」。

そういったセッションが続きました。

そんな中、あるセッションで、たまたまAさんが自分のルーツを話してくれました。
それを聞きながら、私の頭にはたくさんの問いが浮かんできました。
「Aさんはどうして、人と違うことがしたいんですか?」
と聞くと、
「なんでだろう…そういえば、小学生のころからそうだったなぁ・・・」
小学生の時に色んな事を試して、先生に怒られたAさん。
やんちゃが過ぎて、バケツをもって廊下に立たされたこともあるそうです。
お母さんに家から閉め出されて、拗ねたことも。

幼いAさんの様子が目に浮かび、なんだか温かい気持ちになった私は、私にもそんな体験があったこと、
私にとって「人と違うこと」をするのは大きな挑戦であること、そんな思いを話しました。

そこからは、いつものセッションと違う時間になりました。

「『人と違う事をする』をどうして今も続けているんでしょうね?」
「ここまで話して、さらに浮かんじゃった思い出ってありますか?」

お互いがお互いの体験を話す、お互いに話を聞いて感じたこと、つられて思い出したことをさらに話す。
そういうことが繰り返されました。

妙な高揚感がその場に生まれたことを今でも覚えています。
「私たちで一緒にAさんを見つけた、発掘した!」という気持ちです。

最後にAさんは、初めて私に
「自分のことが話せたし、石川さんのことも聞けた。今日は楽しかったです。」
そう言ってくれました。

自分はその場にどう臨んでいたか?

セッションが終わった後、私は、今日はこれまでと何が違ったんだろう?、と考えました。
その日のAさんとのセッションは、サッカーで例えるならば「夢中でサッカーのボールを蹴りあっていたら、
知らぬ間にコートから出て、競技場も出て、知らない素晴らしい景色に辿り着いていた!」という感覚です。

コーチングをしていて初めての体験でした。

今回と比較すると、以前のAさんとのセッションは、「私が良いパスを出して、シュートを決めてもらう
(=良い問いで、良い気付き)」というスタイルだったかもしれません。

コーチングの振り返りでも、「今日の私は良い問い、良いフィードバックができたかしら?」と、
自分の良し悪しばかりを振り返っていました。

Aさんとのセッションの体験を経て、最近のコーチングでは、
「この場に自分はどんなスタンスで臨んでいたか?」
「私はセッションにおいて、どれくらい正直に自分を表現できただろうか?」
「レールを敷かずに、対話をどれくらい2人で楽しめただろうか?」

自分が何をしたかだけでなく、自分のあり方や、二人にとってその場がどんな場になったかを振り返るようになりました。自分だけに向いていた視点が、もう少し広く全体を見る視点に変わったのかもしれません。

一緒にボールをけり合って、知らない世界を見つけに行く。
そう言う場もコーチングで起こせるんだ、と、Aさんとの体験が教えてくれました。

きっとこの捉え方も、また何かの体験がきっかけになって、また変わっていくものだと思います。
そう思うと、ますます一つ一つのセッションが楽しみです。

今のあなたのコーチングは、どんな体験から出来上がっていますか?
あなたはクライアントとセッションで、どんな体験を一緒にしたいですか?


日本コーチ協会 正会員 石川詩乃